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世界に誇る和紙

 
 
  「和紙」、読んで字のごとしで日本が生んだ「紙」である。
原料は、かつて原野や山に自生していた楮(こうぞ)や三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)等である。
安らぎを感じさせる独特の風合はファンも多いが、それに劣らず強靭(きょうじん)な紙質も素晴らしい。当然、インテリア商品にも和紙が使われ好評を博している。
日本に紙が伝来したのは、5世紀の雄略(ゆうりゃく)天皇の頃と推定される。しかし、それがどのような紙であったかは、残念ながら確認する術はなく謎のままだ。

一方、製紙法は610年に高麗(こうらい)から来た僧の曇徴(どんちょう)によって伝えられたことが『日本書紀』に記されている。幸い当時の日本では麻や楮の繊維を衣料に利用する習慣と技術が既に定着していたため、紙を漉くための材料確保と繊維処理という技術面では困難に直面することが少なかった。

さて平安時代初期の927年に制定された『延喜式(えんぎしき)』には、紙の原料として布(布類)、穀(楮類)、麻(麻類)、斐(雁皮類)の4つを記し、更に虫害防止のため苦参(くじん)の使用を規定している。この頃には、黄蜀葵(おうしょくき=トロロアオイ)等の根から絞り取った粘質液を靭皮繊維の紙料液に混ぜて漉くという日本独自の「流し漉き」技法が確立されている。即ち日本が世界に誇る和紙の誕生である。
それから千年以上の歳月が流れた。しかし、主原料として楮や雁皮の「靭皮(じんぴ)繊維」を使い、製造技法は「流し抄き」で漉くという和紙の伝統は連綿として続いている。
この辺で靭皮繊維の定義をしておこう。何故なら靭皮繊維を木質パルプと同意語と誤解する人が壁装業界の一部に見受けられるからである。
『広辞苑』は靭皮繊維を「植物の靭皮部にある繊維。篩部(しぶ)繊維および皮層(ひそう)繊維から成り、強靱で抵抗力が強い。」と解説している。要するに「表皮の内側にある内皮に含まれる繊維細胞の集まった白い繊維」である。
脚光を浴びている和紙だが、生産量は戦前と比べると大幅に減少している。ただ正確な数字は、担当官庁の農林水産省畑作振興課でも把握していないため推定する以外に方法はない。

楮、三椏、雁皮の国内消費は855トンで、内訳は楮が480トンで全体の56%を占め、次いで三椏が310トンで36%、そして雁皮が65トンで8%と続く。しかし三椏の需要先は紙幣原料に使う大蔵省が殆どを占めているため、それを除外すると楮が70%弱と圧倒的シェアーになる。壁紙の場合も同様で、一部に雁皮が見受けられるが、圧倒的主流は楮和紙のようである。
この楮であるが、植物学的には高さ3メートル前後に成長するクワ科の落葉低木(らくようていぼく)で、葉形も桑と似ている。6月頃に淡黄緑色の花を開き、果実は赤熟で桑の実と同じである。



畑作が中心の楮は11月頃に幹の根元部分から伐採するが、強靱な生命力で翌年また大きく成長する。このように畑で栽培できるうえ、同じ木株から毎年収穫できる楮は難枯渇性資源と呼んで差し支えない。そのうえ皮を剥いだ残りの木質部分も楮を釜で蒸すときの燃料や白皮をアルカリ溶液で加熱蒸解する時の燃料として使うという徹底ぶりでエコロジカル材料の典型と言えよう。
さて紙の原料である植物繊維の主成分はセルロースである。セルロース分子は数千個ものグルコース(ブドウ糖)が連結した長い鎖状の高分子(ポリマー)で、これが他のヘミセルロースやリグニン等とも複雑に混合して繊維を構成している。
ところで紙の強度は何によって決まるのだろうか。それは繊維の絡み合いという物理的要因とセルロース分子間の水素結合という化学的要因の2つの要素によって決定される。

靭皮繊維は木質繊維に比べて繊維長が長い。また繊維を柔らかくするための叩解(こうかい)は、和紙の場合、適度な物理力しか加えないため繊維の切断は殆どなく、繊維は長いまま縦に細かくほぐされ、更に水で膨潤して柔軟になる。この「水で膨潤した柔軟性のある長い繊維」は強い紙を漉くための絶対条件である。
さらに靭皮繊維はリグニン含有量が少ないため、紫外線により紙が黄変する度合いが少ない。逆に製紙に有利に作用するヘミセルロースは多く含むという優れものである。新聞紙を数日間、太陽光線の当たる縁側等に置いていると黄色く変色してしまう。これは新聞紙がリグニンを多く含んでいるためである。

次に水素結合を説明しよう。これはセルロース分子に含まれる多数の水酸基の酸素原子が余分の電子を持って、他から軽い水素原子核を引きつけめために発生する。
すなわち近くにある水酸基間で相互に水素を介した酸素の結合ができ、その結合力は通常の化学結合よりは弱いが、長い高分子が無数の水素結合を行うと全体では強い力となる。ちょっと難しいが、これが水素結合のメカニズムである。

ところで壁紙に使われる和紙は殆どが手漉きではなく機械漉きである。しかし、この点は大きな問題ではない。何故なら、手漉きであろうが機械漉きであろうが「流し抄き」技法で漉いている点では変わりがないからである。むしろ厳密に言うと機械漉はロール状にエンドレスの和紙が漉け、コストもリーズナブルだけにインテリア商品の原料として適している。日本が世界に誇る和紙を大いに活用したいものである。