日装連WEB最近の話題-2 ①

Ⅱ.インテリア環境問題

 
Ⅱ-1 室内空気汚染問題が浮上した背景
  昭和48年に第1次オイルショックが発生する。スーパーの店頭からトイレットペーパー等が姿を消した記憶は生々しいが、このオイルショックを契機として省エネ思想が台頭。その帰結として省エネという観点から高気密・高断熱住宅が登場する。高断熱は間違いなく正しいが、問題は高気密である。おそらく当時の認識は、気密性が高いほど熱エネルギーの損失が少ないため省エネに?がると判断したと思われるが早計すぎる。仮に高気密住宅を造るならば、その前提として「換気の必要性」と「建材の安全性」という2点に配慮しなければならない。問題はその認識が希薄だった事である。もちろん当時の検査機器の性能も低かった。

周知のように戦前の日本の伝統家屋は居住性に優れているとは云い難い。断熱材は使わず、おまけに隙間風が入るため火鉢や炬燵で暖を取った。面倒でも朝夕には必ず窓を全開し雨戸を開閉した。結果オーライで意識せずとも自然換気に心掛けていたのである。また新建材も存在していなかった。建築材料の全てが無垢の木材であり漆喰などの自然素材であった。ところが昭和30年頃より始まる高度経済成長は日本の建築を様変わりさせてしまう。湿式工法から乾式工法への転換である。さらに家屋は昭和50年頃よりの技術革新でホルムアルデヒド系のユリア樹脂を使ったベニヤや合板などが続々と登場する。そしてオイルショックによって高気密構造の住宅が登場する。高気密構造なのに換気はしない、さらに建材からはVOC放散ではシックハウス症候群が発生しない方が不思議である。

さて室内空気汚染の元凶と名指しされたホルムアルデヒドだが、「歴史は二度繰り返す」の例えの如く、第1幕は1970(昭和45)年に発生している。当時、ユリア樹脂系接着剤を使用した合板やパーティクルボード等から放散するホルムアルデヒドが新聞等のマスコミで取り上げられた。当時の農林水産省は対応を迫られ1972(昭和47)年に指導基準を通達。そして1980(昭和55)年に普通合板と特殊合板の日本農林規格(JAS)が改正されてF1、F2、F3という3段階の基準値とデシケーター試験法が追加採用された。

デシケーター試験法は当時の農水省の技術陣が中心となって開発したもので、デシケーターと呼ぶガラス製試験器(図版Ⅱ-1)を使うのでこの名前が付けられた。
現在でも広範囲に使われている事からも分かるようにリーズナブルで信頼性の高い試験法である。

さて第1次ホルムアルデヒド騒動は基準値と試験法を制定した安心感から沈静化するが、ホルムアルデヒドを中心とする室内空気汚染はそれほど簡単な問題ではない。15年後に深刻な社会問題としとて再燃してしまう。

1995(平成7)年頃よりホルムアルデヒド問題が一気に顕在化する。ある意味では当然である。現代の住宅は殆ど釘を使わず接着剤で接合していく。おまけにコストダウンという観点から昔のようにムク材は使わずに合板や集成材を多用する。この合板や集成材の使用は木材資源の保護という観点からは正しい。理由はやを活用できるからである。ホルムアルデヒド問題を発生させてしまった最大要因は、その事よりもホルムアルデヒド系接着剤を使用したことに尽きる。それもホルムアルデヒド放散量の少ないフェノール樹脂系ではなく、放散量の大きいユリア樹脂系の木材接着剤を使ったことである。

ユリア樹脂は我国がフェノール樹脂に対抗して官民一体となって開発した国産接着剤である。それだけに使いたい気持ちは心情論からすると理解できるが、結果論からするとホルムアルデヒド騒動の拡大に手を貸す結果になる。こうして第2次ホルムアルデヒド問題の幕が切って下ろされる。

 
Ⅱ-2 ホルムアルデヒドとは何か
  ホルムアルデヒドは分子式HCHO、即ち2つの水素(H)と1つの炭素(C)と酸素(O)で構成されている。刺激臭はあるが、常温では無色の気体で、融点がマイナス92度、沸点がマイナス19度、分子量30の化学物質だ。自然界にも木材やシイタケ等の食品にも含まれる形で存在しているが、健康被害の原因となっているのは工業生産されたホルムアルデヒドである。

釈迦に説法で恐縮だが融点とは固体が壁体になる温度。沸点とは液体が気体になる温度だ。周知のように水の融点は0度、沸点は100度である。次に分子量だが、これは周期律表に記載されている原子量の和で、ちなみに水素の原子量は1、炭素は12、酸素は16である。ということはホルムアルデヒドの分子量は2+12+16=30となる。この分子量と沸点は相関関係にあり、分子量18の水を例外として分子量の大きい物質は一般的に沸点も高く、また沸点が高くなるほど難揮発性の性質を持つ。

ホルムアルデヒドを工業生産するには、一酸化炭素と水素から合成するメタノールを熱した金属を触媒として酸化させる方法で生産している。このメタノールとよく似た名前にエタノールがある。このエタノールは酒類の主成分で、糖類のアルコール発酵により生成している。私達が経験する二日酔いは、ウイスキーや日本酒に含まれるエタノールが体内で酸化することにより発生するアセトアルデヒドによる中毒症状だ。余談になるが有毒性の高いメタノールを飲むと体内で酸化してホルムアルデヒドが発生するので場合によっては死に到るケースもある。実際に第二次大戦後の闇市に出回った「かすとり焼酎」の一部にはメタノールが含まれていたため多くの犠牲者を出したことは悲しい戦後秘話でもある。

ホルムアルデヒドは水やアルコールに溶けやすい性質があり、その性質を利用した水溶液がホルマリンである。ホルマリンにはホルムアルデヒド濃度が37%と50%の2種類が生産されている。37%溶液には安定剤として数パーセントのメタノールが含まれているので常温でも長期間の保存が可能だが、50%水溶液は低温で保管した場合に重合して沈殿してしまうため室温50度以上での保管が必要になる。このため保管が簡単な37%水溶液が圧倒的に普及していて防腐剤や工業原料として広く使われている。中学や高校の理科実験教室で見かける蛇やカエル等の生物標本の入ったガラス容器の液体がホルマリンである。この場合は防腐剤として使われている。なおホルマリンは毒物及び劇物取締法により医薬用外劇物に指定されている。2005(平成17)年の国内生産量は1,175,791トン、工業消費量は548,976トンで、主にフェノール樹脂やユリア樹脂の原料として用いられた。

さてホルムアルデヒドが単体として含まれているか、あるいは化合物として含まれているかは放散期間の点で大きな違いがある。何故ならホルムアルデヒドが単体として含まれている場合は放散期間が短いが、対照的にメチロール基等の化合物の形で含まれている場合は長期間にわたって放散し続けるからである。

だいぶ以前に流通していたホルマリン添加のデンプン系壁紙用接着剤を例にとって説明しよう。周知のように欧米では壁紙用接着剤としてメチルセルロース系の粉末糊を使用しているが、日本ではペースト状のデンプン糊を使っている。この相違は長年にわたる生活習慣の違いである。日本のように夏場に高温多湿となる地域ではペースト状のデンプン糊では腐敗してしまう。その防止策として以前は極微量だがホルマリンを使用していた。但しこの場合はホルムアルデヒドが単体として接着剤中に含まれているだけなので、接着剤が乾燥すると同時にホルムアルデヒドも全て放散してしまう。したがってホルムアルデヒド放散はせいぜい最初の数日間で、それ以降は放散することはない。もっとも現在は殆どの接着剤メーカーが防腐剤として食品衛生法でも認められている食品保存料の安息香酸ナトリウム等へ変更しているので心配は杞憂だろう。これとは対照的にホルムアルデヒドがメチロール基という化合物の形で含まれているベニヤ合板等の接着剤や繊維架橋剤の場合は長期間にわたり放散し続けるのでやっかいである。

 
Ⅱ-3 ホルムアルデヒドが人体に与える影響と基準値
 

ホルムアルデヒドは極めて重宝な工業原料だが、それが室内に放散すると人の皮膚や粘膜を刺激して皮膚障害や眼障害を招きやすいという問題を抱えている。特に最近は皮膚アレルギーのアトピー症が社会問題化して、児童4人のうち1人はアトピー症と指摘されている。アトピー症の主要因がホルムアルデヒドかどうかは別問題として悪影響を及ぼすことは間違いない。

これらの被害状況は深刻なだけに要因として疑われるものは可能な限り取り除かなければならない。
ところでホルムアルデヒドによる障害の程度は医学用語で言うところの個体差(個人差)、即ち感受性の違いがあるため一律には論じられない。例えるなら酒を飲んでも顔色が変わらない人もいれば、赤くなる人もいるのと同じ理屈である。もっとも酒で赤くなるかどうかはアルコールを分解する酵素量の差によって決まるが、ホルムアルデヒドの場合はアレルギー体質を持つ人の方が影響を受けやすいとしか言いようがない。したがって個人差があるのは事実だが、一般的にはホルムアルデヒド濃度と人体への影響は表(図版Ⅱ-2)のようである。

 

これからも分かるようにホルムアルデヒドの人体への影響は健康体の成人の場合0.1PPM以下であるなら問題は少ないといわれている。そのため各国のホルムアルデヒド室内基準値(図版Ⅱ-3)は0.1PPM以下に収斂している。

 

 
Ⅱ-4 壁紙とホルムアルデヒド
 

1995(平成7)年7月1日のPL法施行を契機にホルムアルデヒド問題が急浮上する。このPL法施行は社会的にも大きな意味を持つためマス媒体として圧倒的影響力を持つテレビ等も特集番組を組み、米国での室内空気汚染によるPL訴訟を詳しく紹介したりした。

PL法が施行された当初はホルムアルデヒドに関する知識も浅く情報量も極めて限られていた。その結果、面積量の大きい壁紙がホルムアルデヒド放散の主役と疑われてしまう。しかし業界側も具体的データーが少ないため有効な反論ができなかった。

本格的な調査や研究が進むにつれ壁紙からのホルムアルデヒド放散は極めて低いレベルであることが判明する。おそらく問題が浮上した当時でも殆どの壁紙は0.08PPM以下をクリアーしていたと思われる。だが仮に0.08PPM以下であったにせよホルムアルデヒドが放散していたとするなら問題だ。ホルムアルデヒド完全追放への壁装業界の取組みが開始される。ここで敢えてコメントするが、ホルムアルデヒドは自然界にも存在するうえ、移染性が強いだけに完全追放と意気込んでもゼロということはあり得ない。また仮に最新機器を使って測定したとしても、ある一定以下のレベルは検出不能、すなわちND(Not Detect)ということになる。したがってホルムアルデヒド・ゼロという表現は正確ではない。

さて過去のことではあるが、壁紙のどの部分からホルムアルデヒドが放散していたのだろうか。結論を先に述べると裏打紙(図版Ⅱ-4)からである。

裏打紙に含まれていたメラミン系の難燃剤と紙力増強剤が放散源であった。では何故含まれていたかというと、当時の防火規則を定めた「防火壁装」が裏打紙への難燃剤添加を義務付けていたからである。一方、紙力増強剤を添加した理由は、壁紙の裏打紙の引張強度・引裂き強度を強化するためで、これを怠ると施工の最中に壁紙が重みで破断するトラブルに繋がるためだ。ではどのような対応策を講じたのだろうか。

難燃剤の添加に関しては、防火壁装の難燃剤添加の規制が改正された機会を捉えて裏打紙を難燃紙から普通紙へ変更した。普通紙でも防火試験のクリアーは全く問題がない。

次に紙力増強剤は若干のコストアップになるがメラミン系薬剤からノンホルマリンタイプのアクリルアミド系薬剤へ切り替えている。この2点の対応措置によってホルムアルデヒド放散の大幅抑制を達成した。

 
Ⅱ-5 壁紙用接着剤とホルムアルデヒド
  壁紙用接着剤からホルムアルデヒドは放散するのだろうか。結論を先に述べると接着剤メーカーの努力により現在では全く問題のないレベルと断言できる。日本の壁紙用接着剤はデンプンを原料とするペースト糊である。この点がメチルセルロース系の粉末糊を主体とする欧米とは決定的に異なる。これはインテリア文化の違いであり、文化度の優劣ではない。
たとえば欧米では一般ユーザーが日曜大工(DIY)で壁紙を施工するのは普通の風景である。だいぶ以前になるが当時のイギリス首相であったサッチャー女史が脚立に乗って壁紙を施工する姿が日本の写真週刊誌に掲載され話題になった。このように欧州は女性首相が自分で壁紙を施工する伝統のお国柄である。

また年に1回程度の頻度であるなら粉末糊を水で溶くという面倒な作業もホビーの範疇なのかもしれない。対象的に日本ではプロの施工技能士が毎日のように広い面積を施工している。おまけに大きい建築現場の場合は固定給ではなく歩合給である。冬場になると倉庫内の水も凍結する北海道のような特殊地域を除けば、水に溶かすのが簡単なペーストタイプの接着剤が好まれる。この日本と欧州の壁紙施工に関する好対照の図式は、壁紙施工を日常仕事とするか、あるいはホビーとして楽しむかという生活文化の違いに起因しているのである。

さて接着剤からのホルムアルデヒド放散だが、確かに1995(平成7)年頃までは防腐剤としてホルマリンを微量添加していたようだ。その結果、接着剤が乾燥する過程でホルムアルデヒドを放散させていたのは事実である。だがホルムアルデヒド単体としての添加なので放散期間は極めて短く、換気に留意しさえすれば放散量は急激に減衰して3日間程度で問題ないレベルに低下する。しかし放散している事は事実なので、現在ではすべての接着剤企業が防腐剤を非ホルムアルデヒドタイプへ変更している。

 
Ⅱ-6 カーテンとホルムアルデヒド
  ホルムアルデヒドがF4(☆☆☆☆)をクリアーできないほど多く発生するカーテンは極めて限定される。具体的にはウォッシャブル加工を施したカーテンだけで、その可能性を持つのは綿素材だけだ。なぜならウォッシャブル加工の際にホルムアルデヒドを含む薬剤を使用するから放散するのであって、加工さえしなければ問題を生じない。カーテンに使われる繊維素材でクリーニングをするとシワや縮んだりするのは綿素材だけで、それ以外のポリエステル等はシワや縮んだりしないので加工を施さない。したがって綿素材でもウォッシャブル加工さえしなければF4(☆☆☆☆)をクリアーするはずだし、最悪の場合でもF3(☆☆☆)はクリアーする。

日本の主婦は清潔志向という点では世界でも有数である。台所や洗面等の水廻り商品に抗菌機能を求め、毎日せっせと拭き掃除に精を出す。当然、カーテンに対してもウォッシャブル機能を求める。その結果、各社の見本帳にはウォッシャブル比率が如何に高いかをアピールする数字が氾濫する。では日本の主婦はカーテンクリーニングを頻繁にしているのだろうか。おそらく頻繁にする方は少ないと思われる。

さて自然素材という理由で最近人気の綿は水で洗うとシワになり易く縮む傾向がある。理由は綿を構成する成分の94%がセルロースだからだ。セルロースには結晶部分と非結晶部分が存在していて、この結晶度のバラツキが原因で水分を吸って乾燥する過程で縮んだりシワになったりする。これは綿素材の宿命で、自然素材に合成繊維のような品質を求めることが無理な注文である。どうしても防縮や防シワの機能を求めたいなら、住宅の壁補強の「かすがい」と同じ理屈で架橋剤を使って分子間に「橋を架ける」(図版Ⅱ-5)という化学的処理を施す以外にはない。

この架橋剤として安価で効果の高い物質がホルムアルデヒドである。しかしいくら安価で性能が優秀であってもホルムアルデヒドを大量に放散させたのでは言語道断である。そのため最近は「グリオキザール」を使用するようになった。だがMSDS(安全データーシート)をチェックすれば分かるようにグリオキザールには1%のホルムアルデヒドが含まれている。その結果、ホルムアルデヒドを放散させてしまうのである。残念ながら現在のウォッシャブル加工はグリオキザールを使わざるを得ない。化学品メーカーもホルムアルデヒドを放散しない薬剤の研究に取組んでいるが、開発に成功していないのが現状である。換言するとウォッシャブル加工のカーテンはF4(☆☆☆☆)やF3(☆☆☆)をクリアーするのは難しい。

かつてカーテンはレーヨン素材が主体であった。しかし現在は合成繊維のポリエステルがシェアー73%と推定されトップ。次いでアクリル・アクリル系が20%、レーヨンは限りなくゼロに近い。換言すると合成繊維が93%を占めている。一方、天然繊維は綿、絹、麻の3種類がカーテン素材として使われているが、綿はシェアー7%、絹と麻はゼロと断定しても過言ではない。この綿カーテン7%のうち、おそらくウォッシャブル加工は半分弱の3%であろう。ということは、どのカーテンからもホルムアルデヒドが放散するという表現は誇張というよりは間違いである。仮にユーザーが「綿素材は好きだがホルムアルデヒド放散もイヤ」という場合は、ウォッシャブル未加工の綿カーテンを勧めて欲しい。欧州では洗濯した綿カーテンにアイロン掛けするのは一般的で、衣替えの時期に母娘が仲良くアイロン掛けしている光景を目撃する。

いずれにせよ結論としては、インテリアファブリックス性能評価協議会が建築基準法に準拠する形で「VOC(ホルムアルデヒド)放散自主基準」を作成しているので、それを参考にして選ぶべきであろう。

 
Ⅱ-7 カーペットとホルムアルデヒド
  カーペットとホルムアルデヒドの関係については、他の商材のように因果関係をはっきりと特定することができない。何故ならホルムアルデヒドを含む材料や薬剤を製造段階で使用していないからである。しかしチャンバー法で試験するとホルムアルデヒドを検出する場合が稀にあるという。そのため日本カーペット工業組合も加盟するインテリアファブリックス性能評価協議会では自主基準の対象としてカーペットも含めたのである。

さてホルムアルデヒド放散の可能性として考えられるのはまず移染である。周知のようにホルムアルデヒドは非常に移染しやすいので、原材料の保管段階で移染したことが考えられる。この移染以外の可能性としては、何らかの事情でメチロール基が生成したことである。このメチロール基が分解してホルムアルデヒドを放散させていると推定できるが、現時点では明確な特定にまでは至っていない。いずれにせよ対応策としてはカーテンと同様にインテリアファブリックス性能評価協議会の「VOC(ホルムアルデヒド)放散自主基準」を参考にして選ぶのが最適であろう。

 
Ⅱ-8 合板とホルムアルデヒド
  合板はロータリーレースという機械で木材を薄くスライスした単板を重ね合わせ接着剤で加熱圧着(図版Ⅱ-6)して製造する。

さて原料の木材だが、樹種の差はあるものの殆どの木材からホルムアルデヒドが放散するという。しかし「自然界に存在するホルムアルデヒドは微量のため無視して差し支えない範囲」という見解で専門家の意見は共通している。実際、昔から森に住む人々がホルムアルデヒド被害に遭ったという話は聞かない。あるいは日課のように森林浴を続けている人も大勢いるが、ホルムアルデヒドに起因すると思われるアレルギーが発生したという報告も皆無である。それだけに「自然界のホルムアルデヒドは無視して大丈夫」という指摘には信憑性がある。だとすれば化学合成されたホルムアルデヒドが問題で、その最大の需要先である合板製造に使用する接着剤が俎上に登ってくる。

さて合板用接着剤は最近まで国産技術で開発したユリア(尿素)樹脂が殆ど100%に近いシェアーを占めていた。ユリアの原料は炭酸ガスとアンモニアで、ユリアにホルムアルデヒドを化学反応させ製造したものがユリア樹脂系接着剤である。一方、米国では自国で開発したフェノール樹脂を使用していた。フェノールの名前は知らなくともベークライトの名前は知っていると思う。1907年にベークランド博士が開発した「ベークライト」は、加熱しても柔らかくならない熱硬化性のフェノール樹脂である。これを接着剤に応用したのがフェノール樹脂系接着剤である。ユリア樹脂とフェノール樹脂という好対照な図式は歴史的背景に起因していてルーツは第二次大戦まで遡る。

しかし図式は好対照ではあってもユリア樹脂とフェノール樹脂は供にホルムアルデヒドを原料としているためホルムアルデヒド系接着剤という点では共通している。ただしホルムアルデヒド系接着剤とはいってもフェノール樹脂と較べるとユリア樹脂のホルムアルデヒド放散量は大きい。有機化学の奥行は深く放散量の差には諸々の要因はあるが、基本的にはホルムアルデヒドの配合比率、即ち化学用語で言うモル比の差である。たとえばユリア樹脂はユリア1に対してホルムアルデヒドを2~3の比率で反応させる。一方、フェノール樹脂は1:1~2という具合に低モル比である。換言するとユリア樹脂はホルムアルデヒドの配合量が多く、フェノール樹脂は少ないと表現できる。この差が放散量の違いといえるだろう。したがってF3(☆☆☆)レベル以上をクリアーするためにはフェノール樹脂系接着剤を使用する以外に方法はない。そのため合板メーカーは多額の投資をしてラインの改造を急いだのである。

 
Ⅱ-9 遊離ホルムアルデヒドと潜在ホルムアルデヒド
  合板の遊離ホルムアルデヒドと潜在ホルムアルデヒドを説明したい。前者の遊離ホルムアルデヒドとは何らかの事情でメチロール基を生成できなかったフリーのホルムアルデヒドを意味する。新築直後の独特の刺激臭は、この遊離ホルムアルデヒドに起因する場合が多い。当然、遊離ホルムアルデヒドはホルムアルデヒド配合比の高いユリア樹脂の方が多いということになる。

このホルムアルデヒド特有の刺激臭は放散にともない徐々に減少していく。しかしホルムアルデヒド放散がゼロにならず、長期間にわたって放散し続ける。その理由は硬化した接着剤からもメチロール基の分解により脱ホルムアルデヒド反応(放散)が発生するからである。換言するとメチロール基が加熱分解(※温度が高いほど分解しやすい)と加水分解(※湿度が高いほど分解しやすい)により放散する。これが経年後のホルムアルデヒド放散のメカニズムで、このメチロール基が分解して放散するホルムアルデヒドを潜在ホルムアルデヒドと呼んでいる。

ところで1年のうちホルムアルデヒドの刺激臭を強く感じるのは梅雨の6月から真夏日が続く8月迄が多い。対照的に気温が低く空気も乾燥する冬場は殆ど感じない。理由は夏場の場合、温度と湿度が上昇してメチロール基が分解しやすくなるためである。この生成と分解のメカニズムを理解すると後述するホルムアルデヒド対策が講じやすくなる。

 
Ⅱ-10 身近なホルムアルデヒド対策
  かつてのテレビCMに「臭いものは元から絶たなくてはダメ」という名セリフがあったが、ホルムアルデヒド対策の基本はまさにこれに尽きる。換言すると最善の策はホルムアルデヒド対策を講じている商品を選択することである。具体的には建築基準法でF4(☆☆☆☆)を取得している合板やMDF(中質繊維板)、コルクタイル、壁紙、接着剤を選択すべきである。また建築基準法の対象ではないカーテン、カーペット、家具等は、建築基準法に準拠した業界自主基準があるのでF4(☆☆☆☆)を最優先に選ぶべきだろう。

それはさておき建物の竣工が建築基準法改正前で、何に起因するか分からないホルムアルデヒド臭がする場合はどのように対応すべきだろうか。おそらく大部分の人は施工を担当した工務店や内装工事店に根本的なやり直しを要求すると思うが、最初から全面的に施工をやり直したのでは膨大なエネルギーと金額を要してしまう。以下に緊急の対処法と基本的な対応策を述べたい。もっともホルムアルデヒド対策が急速に進んでいる昨今、対策を実践する必要性は殆どないだろう。したがってあくまでも話題として読んでいただければ幸いである。

  対策1:換気により屋外へ排出

■窓を全開しての換気

日常生活で簡単に出来るホルムアルデヒド排除法は窓を全開しての換気である。この窓を全開しての換気はホルムアルデヒド対策という点で最も効果が高い。ただし実施する際に留意することは反対側の窓も開けて風の流れを作ることである。更にはホルムアルデヒドが充満しやすいクローゼットや押入れ等の扉も一緒に開放しなければならない。なぜならクローゼットや押入れ等の場所こそホルムアルデヒドが放散して滞留しがちだ。とにかくホルムアルデヒド特有の刺激臭がなくなるまで辛抱強く継続することが必要である。

■換気装置による強制換気

最近の戸建住宅やマンションは換気装置の設置が法律で義務付けられている。具体的には建築基準法で一時間当たりの換気回数が0.5回以上の機械換気設備の設置が義務づけられた。換気という点では窓の全開が最も効果的だが、夏や冬、横殴りの雨の日等は窓を全開するわけにはいかない。そこで機械換気設備の出番となる。是非、強制換気を実施していただきたい。

■ベイクアウトによる強制排除

ホルムアルデヒド対処療法としてベイクアウトという手法もある。ベイクアウトとは暖房器具を使って部屋の温度を上げ、ホルムアルデヒドを意識的に放散させた後、頃合を見計らって窓を全開して換気を行うことである。残念ながら、どのタイプの暖房器具を使い、どのくらいの温度で何時間ぐらい暖房すれば良いかという具体的条件を提示できないため説得力に欠けるが、温度が上昇するとメチロール基が分解するというホルムアルデヒドの性質からしても効果大であることは間違いない。但し新築直後にベイクアウトを実施すると、じゅらく壁や珪藻土に代表される湿式壁にクラックが生じる危険性がある。また水分を含んだ木材も湿式壁と同じように急激に温度を上げると歪む危険性があるのでは禁物だ。やはり信頼の置ける専門家に相談すべきであろう。

■エアコンの温度を下げる

ホルムアルデヒドは温度や湿度が高くなると放散量が増え、逆に下がると放散量も減る。したがって部屋のエアコンで室温を下げることも対策の一つである。但し一時しのぎであることを忘れるべきではない。

対策2:水や多孔質物質へ吸着させる

■空気清浄器による吸着

空気清浄機による化学物質の吸着・分解も効果的である。吸着方式の場合はフィルターにコーティングしてあるゼオライトやココヤシの殻を焼いた活性炭等の多孔質物質がホルムアルデヒドを吸着してしまう。なおこの場合はフィルターの清掃や交換をマニュアルにしたがって実施することが必要である。また最近の空気清浄機の高級機種にはフィルターに酸化チタンをコーティングして、スイッチオンにすると内臓のブラックライトがフィルターを照射して光触媒効果でホルムアルデヒドを分解するタイプも登場している。但し機種選択の際には具体的な性能を確認すべきである。

■活性炭消臭剤による吸着

市販の消臭剤にはヤシ殻活性炭等の多孔質物質が容器に詰められている。物質の表面に超微細な穴の開いた多孔質物質はその孔でホルムアルデヒドをキャッチする。但し吸収量には限界があるため、注意書に基づく一定サイクルでの交換が必要である。

■水を入れた容器や観葉植物を室内に置く

ホルムアルデヒドは水に溶けやすい性質があるので、水を入れた容器を部屋の隅々に置いて吸着させる。またゴールデンポトスやバナナ(芭蕉)の木を室内に置くことも効果的である。アメリカ航空宇宙局(NASA)の実験によると両植物のホルムアルデヒド吸収能力は他の植物と比べて優れているという。ただし室内に水を入れた容器を置く方法は湿度を高めるためカビや結露対策という点では難点を伴い、さらにはつまずいて容器の水をこぼす不具合もあるので積極的にはお勧めできない。

対策3:化学結合させる

■尿素(ユリア)水溶液を含ませた雑巾で吸着

メチロール基が分解する過程で離脱するホルムアルデヒドを尿素(ユリア)によって再び化学結合させようというものである。具体的には薬局で購入可能な尿素を20%程度の水溶液にしてタオルや雑巾に含ませ、ホルムアルデヒドが発生していると思われる建材の表面を拭いて吸着させる。理屈としては確かにそのとおりだが、データーないため説得性に欠ける。ベイクアウトと同様に話題として留めた方が賢明かもしれない。

■キャッチペーパー等で吸着

ホルムアルデヒド吸着をうたい文句とする化粧紙やカーペット、壁紙が各社より発売されている。カタログ等での表現は微妙に異なるが、化学的には有機窒素化合物を使ってホルムアルデヒドを安全性の確認された物質であるヒドラゾン化する方法である。ヒドラゾンはメチロール基と異なり再びホルムアルデヒドを放散させることは殆どない。

対策4:化学分解させる

■光触媒酸化チタンで分解する

酸化チタンに波長380ナノメートル以下の光を当てると電子が動き電流が生じで光触媒反応が発生する。反応は3万度以上の燃焼反応に相当し、強い還元力と酸化力を持つと言われている。この還元力と酸化力によってホルムアルデヒド等の有機物を分解する仕組みである。また光触媒反応は通常の燃焼反応とは違い、温度が上昇せず室温の状態で反応が進むのが特徴。また通常の燃焼反応はいったん火がつくと燃え尽きるまで続くが、光触媒反応では光が当たる時に光の量しか反応が起こらないという特徴を持っている。

光触媒は触媒として半導体を使うが、殆どの半導体は水に入れて光を照射すると光溶解反応で溶けてしまう。しかし酸化チタンは光溶融を起こさず、おまけに安価で耐久性にも富むため光触媒の半導体として利用されるようになった背景がある。

光というと雨あがりの虹を連想する人が多い。虹ように眼に見えるのは可視光線である。可視光線の波長は個人差があるものの大体380~780ナノメートルの範囲内に収まっている。ところで光線だが電磁波の一種である以上は空間を波のように波動運動しながら伝わっていく。当然、波であるからには波長と振幅があり、波長は長い方から短い方へ電波⇒マイクロ波⇒遠赤外線⇒赤外線⇒可視光線⇒紫外線⇒X線⇒ガンマ線という順になる。一般的に光と表現する場合は赤外線、可視光線、紫外線の3つを指す場合が多い。

さて光触媒反応に利用できる紫外線は太陽光全体の約3%を占めている。したがって太陽光をフルに受ける外壁タイルや窓辺で使うブラインド等は光触媒反応という点では問題が殆どない。しかし室内で使う商品の場合は太陽光が十分に届かず、さらには日本の室内照明の主流である蛍光灯が紫外線を殆ど含んでいないため効果という点では課題を残す。またアルミなどの無機質素材を使ったブラインドは「問題ない」と説明したが、厳密に表現すると横型ブラインドの「羽」と称する部分に付着する汚れは殆どが塵や埃などの無機質系のものばかりなので分解する効果は大幅に制約されてしまう。

このように一長一短があるとはいえホルムアルデヒド対策には様々な方法がある。また最近は幾つかの方法を組み合わせたハイブリッド型商品も多数登場している。しかし仔細にチェックするとアイディア倒れの珍妙と思われる商品も含まれる。もっとも科学は日進月歩、少ない紫外線でも光触媒作用を発揮する画期的触媒や最新技術が開発される可能性はある。これが画期的触媒なのかどうかは分からないが、最近「暗所触媒」をセールスポイントにしたカーテンも登場した。ならば尚更のこと詳細なデーターを公表して頂きたい。ホルムアルデヒド対策の結論としてはデーターを慎重に確認することに尽きる。